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読んで良かったおすすめの本20選

年間100冊以上本を読む私ですが、今までに読んで印象に残っている本20冊を紹介します。

良かった本20選

中道態の世界:國分功一郎


ギリシャ文明あたりまで、欧州では受動態と能動態の間に中道態という語法があったという。それが時代を経て近代になるにつれ、それがどちらかへ切り分けられ、個人の責任というようにしか発話者には認識できないように言語自体が変化していったという。〈自由意思〉や〈個人〉という物を問い直すきっかけになる一冊。

 

自閉症の哲学 構想力と自閉症からみた「私」の成立:相川翼


特別支援学校の介助員をしている、哲学出身の著者がから見た自閉症と定型発達との違い。自閉症のひとはどのあたりが弱くシステム偏重になり適応が難しく、定型発達の人はどのように日常的なところをやり過ごしているのか、哲学に詳しくなくても解りやすく解説している。

 

そろそろ左派は〈経済〉を語ろう:ブレイディみかこ、北田暁大


日本の左派、シルバー左翼などはあくまで安保法案などでデモをしているが、景気や社会保障などについてはあまり語ること自体をしない。そのことがヨーロッパの左派との違いだという。米国でもアイデンティティ政治をするヒラリー陣営が敗北したが、米国でもエリートは庶民に関心が薄かったのだろう。

 

労働者階級の反乱:ブレイディみかこ


英国人の労働者階級のなかで20年ほど住む著者によると、周囲の人の多くは、反移民ではなく反緊縮という意見が多いという。そのためEU離脱に賛成した人たちも、とにかく保守党に反対ということで投票した人が多いとのこと。緊縮で苦労している労働者階級は、70年代から移民と接しているので、それほど移民に対する反感は大きくないということである。

 

システム現象学ーオートポイエーシスの第四領域:河本英夫


人は自らが、内的運動感覚、平衡感覚、触覚などの明確でない感覚と、視覚という明確な感覚を結び付けて、自己感覚と自己の体験を作ってゆく、とのことだが、最近のロボット研究で取り上げられる自己身体から離れた中心で周囲を観察し、行動を決定するというモデルと全く異なる人間観である。こちらの方が動物とのつながりがあり、感覚的に納得できる話である。

 

戦場の掟:スティーヴ・ファイナル


民間軍事会社に関するものだが、表紙の印象と違って、実際に出てくるのは、米国の大学でパーティー三昧の日々で満たされない青年や、むやみに発砲する同僚を嫌悪する社員、比較的死亡補償金が安い途上国出身者ばかりが危険なポジションに付かされるの嫌がって退社する社員など、普通の人間が社員として取り上げられている。いろいろと批判の対象とされる民間軍事会社だが、あくまでも運営したりする人次第なのだろうと思わせる一冊。

 

戦争請負会社:P.W.シンガー


民間軍事会社について書かれているものでは、初期に出たものだが、著者はジャーナリストではなく国際政治の研究者である。どのような経緯で、どのような人たちが民間軍事会社を始め、それがどのように展開して拡大していったかがよく解る。この本が出版された後に、イラクでの民間会社の武装警備員がニュースなどで取り上げられるようになったので、そのような事柄に関する基礎知識を得るのに最適な一冊。

 

さあ、地獄へ堕ちよう:菅原和也


多くの場合、小説の主人公というと、大学生、社会人などか、それ以外なら探偵などの独特の職業の物が多いが、この場合はSMバーでアルバイトをする20代前半の女性で、薬やアルコールでなんとか日常をしのいでいるという設定。しかしながら、身近なところで事件が起こったことで、どんどんと能動的に動いていく。強い意志を持って薬物やアルコールを絶って、ではなく、薬やアルコールに頼りながらなんとか動いて展開していくというのが独特だった。今後が楽しみな作者である。

 

フツーの子の思春期 ー 心理療法の現場から:岩宮恵子


スクールカウンセラーの著者の書いたものだが、臨床心理の本というと、描画や面接、箱庭などで関わりながら様々なクライアントの葛藤や内面が展開するものが多かったが、本書では、最近の中学生がいかに葛藤や反省、内省をもたずに暮らしているかが描かれている。著者によると、昔の幼稚園から小学校低学年くらいの自己や主体しかもたない子供が増えたため、これまでの内面と関わる、という方法がそもそも通じないので、自他の境界や主体を作り出していくような関係から始めるしかないとのことである。

 

ST プロフェッション 警視庁科学特捜班:今野敏


警察ものなどの多作な著者だが、感染症やサイコパスなどの素材を使い、浅く広く読みやすく書いてある。複雑なプロットや難解な知識などを求めない気楽な読書としていいかもしれない。あくまでこの著者のテーマは生きている人間の体なのだという事がよく解る一冊。

 

負債論 貨幣と暴力の5000年:デヴィッド・グレーバー


人類学の本などでは、人類はもともと物々交換をしていたというような事が書いてあるが、著者によると、農業を始めてからはあくまで借り貸し、信用と債務、債権が中心であり、その手段として通貨などが作られたのだという。そして信用や通貨などが滞ると、帝国の崩壊などの大きなデフォルト、借金帳消しなどが行われていたという。貨幣の歴史を見るという大きな視野の本である。

 

身体はトラウマを記録する:ヴィッセル・ヴァン・デア・コーク


米国のPTSD研究の第一人者の書いたものだが、第一次大戦のシェルショックから、犯罪被害者のPTSD、現在の帰還兵の問題まで幅広く取り上げられている。トラウマとそれへの反応に対する基本からまとめたもので、医療、福祉の関係者に役立つだろう。

 

弱いロボット:岡田美智男


ロボットというと、人間のできないようなことをする、様々な機能を付け加えて高機能化するという研究が多いが、この著者は反対に、機能をしぼって、周囲と関わりを持って、協力して何かをできるようにするというアプローチで研究している。人間に関する考察の本でもある。

 

紙の動物園:ケン・リュウ


中国系アメリカ人の書いた短編SF小説集だが、様々な時代を舞台に設定して、独特な短編小説が集められている。テーマの選び方、設定のしかたなどが独特で、他の中国系SF作家にも言えることだが、こういう切り口もあったか、と思わせるものが多い。

 

甘えたくても甘えられない:小林隆児


発達に偏りがある子供と母親の関係を、どのようなものかを解りやすく解説している。発達に偏りのある子供が、言語以前の部分でどのように反応しているかを解りやすく解説しているため、大変役に立つ一冊。

 

アウシュビッツの回教徒:柿本昭人


ナチスの収容所に強制的に収容され、労働させられていた人たちで生き残った人の多くは、自分は価値があるから生き残った、生き残れなかった人は価値がなかったとの見方を、戦後何十年も経っても持ち続けているという事を、各種資料で示した一冊。

 

都市を生き抜くための狡知ータンザニア零細商人マチンガの民族誌:小川さやか


アフリカの文化を知る為に、現地の露天商に自らなり、関わりながら研究した記録。先進国と違い、警察も当てにならない国で、どのような関係で人々が暮らしているのかが解る一冊。

 

セラピストは夢をどうとらえるか 五人の夢分析家による同一事例の解釈:川嵜克哲


夢を扱った臨床から、近代とは何か、いかにしてその人の個人や内面というものが出来てくるのかを解説している。今ある「個人」「内面」というものが時代的にいつあたりに出てきたものか、から解説。

 

時間と出来事:渡辺由文


時間に関して考察したものだが、抽象化した哲学とは違い、日常の生活感覚的なところから論考を始めている。時間概念の発生から拡がりについて参考になる一冊。

 

ドラゴン・ティアーズ 龍涙 池袋ウエストゲートパーク9:石田衣良


現在14まで行っているシリーズの9作目。その時々の社会問題をもとに、一冊に3つくらいの中編小説を載せているのだが、13作まで行ってもまだまだ素材に困る様子がない。主人公が町の果物屋の青年というのも読みやすい理由だろう。長く続いてもハズレがないシリーズ。

 

まとめ

今年は人文科学の本でいろいろと出ていましたが、出版不況と言われていても興味深いものはしっかりと出版されています。やはり、文学とかのほうが出しても売れなくなっているのでしょう。